本プロジェクトでは、「寿司クロスモーダルAR」という新たな食体験を提供する技術を開発しました。本技術では、AR（拡張現実）ゴーグルを着用したユーザーが、例えばマグロの寿司を食べるときに、視覚上ではトロやサーモン、ハマチなどの寿司ネタに変換して体験することができます。

この技術の鍵となるのは、「クロスモーダル」（視覚と味覚）の錯覚を利用することです。視覚的な情報が味覚を操作し、食べている寿司の脂身感や美味しさといった評価を変化させます。この技術は、心理物理実験によってその効果が確認され、日本VR学会で奨励賞を受賞しました。さらに、オックスフォード大学のチャールズ博士の著書「おいしさの錯覚」で取り上げられるなど、その優れた成果が認められています。

本技術の開発にあたっては、食品領域の精確な抽出や、姿勢の検知によってテクスチャを適切に重畳するアルゴリズム、違和感をなくすためのブレンディング技術、さらにはオクルージョン発生時も適切に重畳するアルゴリズムなどが工夫されています。

寿司クロスモーダルARは、以下のような応用が考えられます。

• レストラン体験の向上：レストランでの食体験を向上させ、新たなエンターテイメント要素を加えることが可能です。これにより、レストランの新しい付加価値となる可能性があります。
• 食育：子供たちが苦手な食べ物を視覚的に好きな食べ物に変え、食事の楽しさを教える新たな食育ツールとして活用できます。
• ダイエット支援：カロリーの高い食べ物を低カロリーのものに見せることで、食事の満足度を保ちながらダイエットを支援することができます。
• 食品開発：食品の開発者が新たな製品の試作を評価する際、視覚的な印象と味覚の相関性を探るツールとして活用できます。
• 医療・介護：高齢者や特定の病状の患者が食べられる食事を美味しそうに見せることで、食事の摂取量を増やす支援をすることが可能です。